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山口地方裁判所 平成3年(ワ)86号 判決 1992年11月25日

原告

原田正子

被告

山本英樹

ほか二名

主文

一  被告山本英樹及び同山本勲は、原告に対し、各自三八四九万九三八一円及びこれに対する平成元年二月一五日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告山本英樹及び同山本勲に対するその余の請求及び被告有限会社山口園芸資材センターに対する請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用のうち、参加によつて生じた分の二分の一を原告補助参加人仁保農業協同組合の負担とし、その余を被告山本英樹、同山本勲の負担とし、その余の訴訟費用は、原告に生じた費用の一〇分の四と被告山本英樹、同山本勲に生じた費用を右被告らの負担とし、原告に生じたその余の費用と被告有限会社山口園芸資材センターに生じた費用を原告の負担とし、原告補助参加人仁保農業協同組合に生じた費用を同参加人の負担とする。

四  この判決の一項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告らは、原告に対し、各自、五二五七万八六七八円及びこれに対する平成元年二月一五日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告運転にかかる自動車と被告山本勲(以下、被告勲という。)が保有し、被告山本英樹(以下、被告英樹という。)運転にかかる自動車及び被告有限会社山口園芸資材センター(以下、被告会社という。)が保有し、被告会社の代表者平尾照美(以下、平尾という。)運転にかかる自動車とが衝突したことによつて負傷した原告が、自賠法三条に基づき、損害賠償金五二五七万八六七八円とこれに対する本件事故の日である平成元年二月一五日から支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求めた事件である。

一  争いのない事実等

1  原告は、平成元年二月一五日午後一一時三二分ころ、山口市桜畠三丁目三番四五号喫茶「ピッコロ」先(以下、本件事故現場という。)道路上を普通乗用自動車(登録番号山口五七ね四四三八。以下、被害車という。)を運転して進行中、前方から進行してきた被告英樹が運転し、被告勲が保有する普通乗用自動車(登録番号福岡五七め九一一九。以下、第一加害車という。)(甲一〇、一二、二四)に衝突し(以下、第一衝突という。)、その後、被害車に追走してきた平尾が運転し、被告会社が保有する普通乗用自動車(登録番号山口五九さ三七二九。以下、第二加害車という。)に衝突した(以下、第二衝突という。)(以下、右両衝突を併せて本件事故という。)。

2  原告は、本件事故により胃出血、外傷性クモ膜下出血、外傷性ショック、外傷性脳内出血、痙攣発作、呼吸不全、出血性ショック、多発性顔面裂傷、頭部外傷、肺炎、右外傷性散瞳、右眼瞼裂傷、右球結膜下出血、右眼窩底骨折、鼻腔粘膜・鼻前庭裂傷、両上腕・両下腿打撲、右上顎第一切歯の欠損の各傷害を負つた。原告は、右傷害の治療を受けるため、済生会山口総合病院に平成元年二月一六日から同年四月一三日まで(五七日)入院し、同年五月二日から平成二年九月二五日まで通院し(実通院日数・一二日)、山口県立中央病院に平成元年四月一三日から同月二〇日まで(八日)、同年六月一八日から同年七月二二日まで(三五日)、同年一一月二七日から同年一二月一二日まで(一六日)、同月一八日から同月三一日まで(一四日)それぞれ入院し、その後平成二年九月二〇日まで通院(実通院日数・二三日)した。さらに、原告は、大内宇都宮歯科医院において、平成元年五月九日から同月二〇日まで通院(実通院日数・四日)して治療を受けた(甲一二、一五ないし二二、二九、原告)。

3  原告は、自動車損害賠償責任保険から四〇万円の支払いを受けた(被告英樹、同勲の関係では、明らかに争わない。)。

二  主たる争点

1(被告会社の自賠法三条但し書による免責の主張)

本件事故は、被告英樹運転にかかる第一加害車が時速九〇キロメートルを超す速度で対向車線に突入して被害車に衝突し、その結果、被害車が向きを変えて被害車に追走していた第二加害車に向かつて滑走し同車と衝突した。平尾は、時速三、四〇キロメートルで第二加害車を運転しており、被害車との車間距離を三、四〇メートルとつていたものである。よつて、本件事故は、被告英樹の過失に基づいて発生したものであり、第二加害車には構造上の欠陥又は機能の障害もなく、平尾には過失がない。

(被告会社の右主張に対する原告及び補助参加人の反論)

(一) 平尾は、被害車に追走していたが、本件事故時は一日の勤務を終えた後の午後一一時であつて疲れていたこと、降雨のため路面が滑り易いこと、このような状況下で前車に追走する場合、通常より長めの車間距離を保持して、前車の動静に十分注意して運転すべき注意義務があるのに、漫然と約三〇メートルの車間距離を保持したに過ぎないし、また、原告が急制動措置を取り、後部ブレーキランプを点灯したのにそれを見落とした過失がある。

(二) 平尾は、本件事故時に被害車の前に黒つぽいものが入つて来るのを見ているのであるから、被害車と黒つぽいものとの間で何らかの衝突が生じ、加害車が急停止することが予見できるのであるから、直ちに、あるいは遅くとも黒つぼいものが被害車の前に入り被害車が危険を感じ、急制動措置を取り始めた時点で急制動措置を取る注意義務があつたのに、漫然と距離があるなどと軽信して急制動措置を取ることを怠つた過失がある。

2(原告の損害の主張)

(一) 本件障害による損害

(1) 治療費 二三万〇二五〇円

(2) 入院雑費 一六万九〇〇〇円

(3) 休業損害 二四二万二九八〇円

(4) 慰謝料 四〇〇万円

(二) 本件後遺症による損害

原告は、前記治療を受けたにもかかわらず、平成二年九月二〇日に至るも、右上顎第一切歯の欠損、顔面右頬部に四・三センチメートル、口唇の上に三・六センチメートル、下に八・三センチメートルの各線状瘢痕、右眼下瞼外反の各醜状障害(七級一二号該当)、両眼の視野狭窄・視野欠損(九級三号該当)、右眼瞼の欠損(一一級三号該当)、右眼の開瞼・閉瞼障害(一一級二号該当)、左右上下視での複視(一四級該当)、右眼視力が矯正視力でも〇・四に低下した(一三級の一該当)ことの各後遺障害を残存した。

(1) 逸失利益 労働能力喪失率六七パーセント 三〇六五万六四四八円

(2) 慰謝料 一一〇〇万円

(三) 弁護士費用 四五〇万円

第三判断

一  主たる争点1について

証拠(甲二、八、九、一〇、一一、一二、乙一ないし八、丙一の1ないし4、二の1ないし3、三の1ないし4、被告会社代表者平尾、弁論の全趣旨)によると、次の事実を認めることができる。

1  本件事故現場は、片側幅員三・五メートルのコンクリート舗装の道路上で、その内側には幅一メートルと〇・八メートルの外側線が白ペイントで表示され、道路中央部には黄色ペイントの実線でセンターラインが二本設けられている。右道路は、小郡方面に向かつて半径三〇〇メートルの右カーブであり、道路面は平坦で凹凸勾配はないが、路面は降雨のため湿潤しており、街灯が設置してあるがやや薄暗い状態であつた。また、右現場付近は、毎時五〇キロメートルの速度規制がなされ、追越しのための右側部分はみ出し禁止等の規制がなされている。

2  平尾は、本件事故当日、被告会社の従業員である原告と一緒に食事をした後帰宅するため、第二加害車を時速約四〇キロメートルの速度で運転して被害車の後方から追走していた。本件事故当時、雨が降つていたので、平尾は、ワイパーを使用し、被害車と第二加害車との車間距離を約三〇メートル置いて走行していた。平尾は、本件事故現場に差し掛かつた時、被害車の前方に黒つぽいものが見え、次の瞬間車のボンネットが見え、被害車の左側から食い込んでなくなるように見えた。平尾は、被害車の前方に黒つぽいものが見えたと同時くらいに第二加害車のブレーキを踏み停止したが、第二加害車が停止状態になる頃、第一衝突によつて押し戻された被害車の左前部が第二加害車の前部に衝突した。

3  他方、被告英樹は、時速約八〇キロメートル以上の速度で第一加害車を運転し本件事故現場に差し掛かつたが、不用意に制動してハンドルを右に転把して第一加害車を対向車線上に滑走させ、対向進行してきた原告運転の被害車の前部に第一加害車の左側部を衝突させた。右衝突をした被害車は、右衝突の衝撃により押し戻され、折から追走してきていた第二加害車に衝突したものである。

4  第二加害車は、クラウン二〇〇〇・ロイヤルサルーン・スーパーチャージであり、昭和六三年一月二三日に注文して購入し、本件事故当日まで一年強した経過しておらず、また、トヨタオートで定期点検を行つており、構造上の欠陥又は機能の障害はなかつた。

右の事実によると、平尾は、法定速度を遵守し、通常の状況下においては適切な車間距離と評価される車間距離を保つて運転し、被害車に異常が発生したことを察知した後の処置にも非難されるところがなく、他方、本件事故は、第一加害車の運転者である被告英樹の過失によつて生じたものであり、かつ、第二加害車には構造上の欠陥又は機能の障害はなかつたものということができる。

これに対し、原告らは、主として丁一、二(大慈彌雅弘(以下、大慈彌という。)作成の鑑定書、同補充書)及びこれを補充する証人大慈彌の証言を根拠に、第二加害車には<1>被害車に対する動静注視義務違反、<2>停止義務違反の過失がある旨主張する。しかしながら、丁一、二は、本件訴え提起後に原告補助参加人仁保農業協同組合が本件訴訟の資料として使用するために大慈彌に依頼して作成された鑑定書であり、右大慈彌も右使用目的を理解して作成したものであること(証人大慈彌、弁論の全趣旨)、丁一には、丙九(吉川泰輔作成の鑑定書)に指摘されるような問題点が存在することに徴すると、丁一、二及び証人大慈彌の証言はにわかに採用できるものではない。そして、第二衝突は、第一衝突によつて押し戻されてきた被害車に後続車である第二加害車が衝突するという通常では容易に予見し難い状況下において発生した事故であること、平尾は、加害車に異常が発生したと察知した後、直ちに第二加害車のブレーキを踏んで停止していること、昼間における本件事故現場の見通しが丁三のごとくであつたとしても、本件事故時は深夜であつて、第二加害車の前方には被害車が走行しており、必ずしも前方に対する見通しがよかつたとはいえないこと、被害車が第一衝突前に急制動措置を取り、被害車のテールランプが点灯したことを認めるに足る証拠はないこと及び前記認定の事実に徴すると、原告ら主張の右<1>、<2>の過失は認め難いと言わざるを得ない。

そうすると、被告会社は、自賠法三条但し書の要件を充たすことによつて、原告に対する損害賠償義務を免れる。

二  主たる争点2について

1  本件傷害による損害

(一) 治療費 二三万〇二五〇円

前記事案の概要一2の事実及び証拠(甲一七、一八)により認める。

(二) 入院雑費 一五万六〇〇〇円

前記事案の概要一2の事実及び証拠(甲二九、弁論の全趣旨)により、原告は、入院期間一三〇日につき、一日当たり一二〇〇円の割合による入院雑費を要したと認める。

(三) 休業損害 二四二万二九八〇円

前記事案の概要一2の事実及び証拠(甲一四、二〇、二九、原告)により、原告は、本件事故当時、被告会社に事務員として勤務し、年収二三四万円(一日当たり六四一〇円)の収入を得ていたこと、本件事故による傷害を治療するため、本件事故の日の翌日から平成二年三月一日までの三七八日間休業したことを認めることができ、原告は、右休業により、二四二万二九八〇円の損害を被つたと認める。

(四) 慰謝料 二〇〇万円

本件事故の態様、傷害の内容、治療経過その他諸般の事情を総合勘案すると、本件傷害の治療のための入通院による原告の精神的苦痛を慰謝するための慰謝料として、二〇〇万円が相当と認める。

2  本件後遺症による損害

証拠(甲一九ないし二二、二七ないし二九、三一、証人宮崎朋子、原告1弁論の全趣旨)によると、原告は、前記治療を受けたにもかかわらず、平成二年九月二〇日に至るも、右上顎第一切歯の欠損、顔面右頬部に四・三センチメートル、口唇の上に三・六センチメートル、下に八・三センチメートルの各線状瘢痕、右眼下瞼外反の各醜状障害、両眼の視野狭窄・視野欠損、右眼瞼の欠損、右眼の開瞼・閉瞼障害、左右上下視での複視、右眼視力が矯正視力でも〇・四に低下したとの各後遺障害を残存したことを認めることができる。

(一) 逸失利益 二〇五九万〇一五一円

右の事実と原告は、本件事故により記憶力が減退し、目の後遺症のため事務能力が低下したこと、自動車の運転もできなくなつたこと等の労働能力低下の実情、被告会社代表者平尾は、従前からの経緯から原告を今後も雇用していく旨述べているが、原告の労働能力が事故前の右能力の六〇パーセントにも満たないくらいに低下したことを認め、それ故に昇給は停止し、ボーナスも支給しないとの雇用条件となつていること等の事情(甲二九、原告、被告会社代表者平尾、弁論の全趣旨)に鑑みると、原告の労働能力喪失率は四五パーセントと認めるのが相当であり、前記認定の原告の年収二三四万円を基礎とし、新ホフマン方式により中間利息を控除した原告の後遺症逸失利益の現価を算定すると、二〇五九万〇一五一円(二三四万円×一九・五五三八×〇・四五)となる。

なお、被告英樹、同勲は、原告は被告会社に復職し、従前どおりの給与の支給を受けているので、損害の発生はない旨主張するが、右認定の事実関係に徴すると、右主張は採用できない。

(二) 慰謝料 一〇〇〇万円

右の事実と本件に現れた諸般の事情を総合勘案すると、原告の後遺症による精神的苦痛を慰謝するための慰謝料として、一〇〇〇万円が相当と認める。

(三) 弁護士費用 三五〇万円

証拠(原告、弁論の全趣旨)によると、原告が本件訴訟の提起及び追行を原告訴訟代理人に委任し、相当額の費用及び報酬の支払いを約束していることを認めることができるところ、本件事案の性質、審理の経過及び認容額等を考慮すると、原告が本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は三五〇万円が相当と認める。

三  以上の次第で、被告英樹及び同勲は、原告に対し、自賠法三条に基づき、原告の被つた損害三八四九万九三八一円とこれに対する本件事故の日である平成元年二月一五日から支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務があるから、原告の請求は右の限度で理由があり、原告の被告会社に対する請求は理由がない。

(裁判官 松山恒昭)

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